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キタサンショウウオ──湿原の奥に、いるかもしれないという記憶です

Particles(軽い雑談)
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釧路湿原には、キタサンショウウオがいるとされています。 けれど、その姿を見た人は少なく、語られることのほうが多いようです。 黒っぽい体にオリーブ色の模様、枝に絡むような卵嚢── それらは、記録には残っていても、記憶には滲んでいるように感じます。

この生きものは、氷河期の遺存種とも言われています。 釧路湿原や国後島など、限られた場所にだけ分布していて、 その生態は、湿地の水たまりのように、境界が曖昧です。 動きは小さく、産卵池の周辺からほとんど離れないとも言われています。 それは、見つけようとしても見つからない、けれど“いるかもしれない”という気配のようなものです。

近年、湿原の乾燥化や開発によって、生息域は変わりつつあります。 保全のために卵嚢を移す取り組みも行われましたが、 それが“成功”だったのかどうかは、まだはっきりしていません。 ただ、移された先で卵嚢が増えた年もあったそうです。

キタサンショウウオは、釧路市の天然記念物に指定されています。 けれど、その肩書きよりも、 「まだ、いるかもしれない」という余白のほうが、この生きものには似合っている気がします。

釧路湿原は、生きものの数を数える場所ではないのかもしれません。 それは、気配だけが残るような場所であり、 キタサンショウウオは、その気配のひとつとして、静かにそこにいるような気がします。

HR


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