酸素という語感は、どこか安定しています。 呼吸に使われる、空気の中にある、無色で無臭── その印象は、日常の中に静かに溶け込んでいます。
けれど、酸素には同素体があります。 O₂(酸素分子)とO₃(オゾン)。 どちらも酸素原子からできているのに、ふるまいはまるで違います。
O₂は直線型の分子構造で、安定しています。 私たちが吸い込む空気の中にあり、燃焼を助ける性質を持っています。 その存在は、見えないけれど確かなものとして、日常に根を張っています。
一方、O₃は折れ線型の分子構造で、不安定です。 淡青色で、特異臭を持ち、強い酸化力を持っています。 成層圏では紫外線を吸収し、地表を守る役割を果たしています。 けれど、地上では殺菌や脱臭に使われることもあり、 そのふるまいは、守るものと壊すものの境界にあるようにも見えます。
O₂からO₃をつくるには、紫外線や無声放電など、外部からのエネルギーが必要です。 それは、安定なものを不安定にするという設計でもあり、 逆に、O₃は酸化反応を通じてO₂に戻ろうとします。 その往復は、構造の揺らぎとして、化学反応の中に記録されています。
酸素の同素体は、ただの分子の違いではないのかもしれません。 それは、同じであることの中に、違いが浮かび上がる構造であり、 語感とふるまいが、静かに分岐していく記憶なのかもしれません。
HR